…」
「それは、こうだよ。地球のうえから月を見ると、黒ずんだところがある。その黒ずんだところが、ちょうど海のように見えるので、それで『海』というのだ。『笑いの海』というのが、つまりは、岩でできた平原なんだ。降りてみれば、よくわかるがね」
「はあ、そうですか。『笑いの海』の『笑い』というのは、どんなことですか」
「それは地名だよ。伊勢湾《いせわん》の伊勢と同じことだよ。しかし一説に『笑いの海』の黒ずんだ形がなんとなく笑っている人間の横顔みたいだから、それで笑いの海というのだと説く人もある」
「へえ、笑っている人間の横顔ですって」
 三郎は、また窓から、月の世界をのぞいた。
「ほら、あそこだ。一番高い山の左をごらん。まだ形がはっきりしないが、あの黒いところが『笑いの海』だ。笑っている人間の、鼻だの口だの頬だの、あたりが見えている」
「ああ、見えます、よく見えます」
 三郎には、艇長のいったとおりの、月の面にはいっている笑いの顔の一部が見えた。
 そういううちに、噴行艇は、月面に対していよいよ高度を下げてきたものと見え、光の帯のように見えていた太陽のあたる月面は、いつのまにやら幅が川のように
前へ 次へ
全115ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング