える。やわらかさがない。死の世界である。けものもすんでいなければ、虫もとんでいない。花もなければ、木も生えていない。
「ああ、なんというさびしい月の世界であろう」
 三郎は思わず、ため息をついた。
 ただ心地よいのは、わが噴行艇が、光の尾をひいて、いさましくとんでいることであった。噴行艇は生きている。ま下の月の世界は死んでいるのだ!
 三郎は、とうとう窓から、身体をひいた。あまり荒れはてた月の世界の光景をながく見ていると、気がへんになってくるのだった。
 三郎が妙な顔をしていると、そこへ艇長がやってきて、触角をさしだした。
 三郎も、こんどは心得て、触角をさし出した。艇長が何か話してくれるのであろう。
「どうだ。月の世界が、はっきり見えたろう。すさまじいところなので、びっくりしたろう」
 三郎は、うなずいた。
「光っている陸地が見えたろう。『笑いの海』は、あの中にある。もうすぐ着陸だ」
「ああ艇長。『笑いの海』というと、月の世界に、海があるのですか」
「ほんとうの海ではないよ。月には水がない。だから海どころか、小川も水たまりもない」
「じゃあ、いよいよへんですね、『笑いの海』だなんて…
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