》をすくうこともあるかもしれないのだからなあ。やい、三郎、気をつけろい。ここは、地球の上じゃない。まるで何もない大宇宙の砂漠なんだから……」
 艇夫長は、缶をそっと床の上において、しずかに、元《もと》の隅《すみ》へおしやった。大宇宙の長旅にある噴行艇の中では、一滴の塗料、一条の糸も、人命にかかわりのある貴重な物質であった。
「おい、三郎。早く飯を食って、交替時間におくれるな。いいかい、小僧」
「へーい」
 艇夫長は、ようやく腹の虫を自分でおさえて、艇夫寝室を出ていった。
 三郎は、ほっとため息をつきながら、すばやく身じたくをし、それから釣床の中を片づけて交替の艇夫がすぐ様《さま》ねられるように用意をした。そして急ぎ足で、小食堂の方へ階段をのぼっていったのだった。
 小食堂には、先におきた艇夫たちと、それから非番の艇夫たちが、卓をかこんで、さかんにぱくついたり、茶をがぶがぶのんだり、それから煙草《たばこ》をぷかぷかふかしたり、まるで場末の小食堂とかわらない風景だった。
 三郎が入っていくと、艇夫たちは、にんまりと眼で笑って、そのまま話をつづけるのだった。三郎は、並べられた朝食に手を出しな
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