にしよう。
十五年の行程《こうてい》
「おい、三郎。いつまで、ねているんだい。もういいかげんに、目をさましたらどうだい」
その声は、ひびの入った竹ぼらをふくと出てくる音に似ていた。そこで三郎は、ようやく釣床《つりどこ》の中で、眼をさましたのだった。すこぶるやかまし屋の艇夫長《ていふちょう》松下梅造《まつしたうめぞう》の声だと分ったから目をさまさないわけにいかなかった。ぐずぐずしていれば、足をもって、逆さまに釣り下げられ、裸にされてしまうおそれがあった。そんな眼にあっては、また大ぜいのものわらいである。
「はい。今おきますよ」
「おきますよ? そのよ[#「よ」に傍点]がいけない。はい、おきます――だけでいいんだ。よけいなよ[#「よ」に傍点]をつけるない」
(これはいけない!)
三郎は、あわてて釣床から下に落ちるようにして、おきたのだった。
はたして、前には、艇夫長松下梅造が、西郷《さいごう》さんの銅像のような胸をはって、釣床ごしに彼の顔をにらみつけていた。
「艇夫長、お早う。もう朝になったのですかい」
「知れたことだ。あと三十分で、お前の交替時間だぞ。時計は、七時半を
前へ
次へ
全115ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング