は、側《そば》で聞いていて、かなりうるさいいびきだったが、きょうばかりは、そのいびきが三郎を元気づけた。
「ああ艇長は、どうしていられるのかしら」
 三郎は、急に艇長のことが心配になったものだから、仕切りの扉のところへいって、そのうえをどんどんと叩《たた》いた。
「艇長、どうしておられますか。異状はありませんか。辻艇長!」
 三郎は、大声でどなった。
 だが、仕切りの扉の向こうから聞えるものは、あいかわらず、ほらの貝をふきたてるような艇長のいびきだけであった。
「艇長、艇長。重力装置が停まっていますが、そっちには異状ありませんか」
 どんどんどん。
 三郎は、やけになって、扉を叩いた。すると、
「あっ、ああーっ」
 艇長の、のびをする声がきこえた。
 ところが、この声は、寝床のうえから聞えず、とんでもないところから聞えたから、三郎は、面《めん》くらった。それは、どう考えても、仕切りの扉のすぐ裏のところで、しかも天井とすれすれまでにのぼっていられるようにしか考えられなかった。
「艇長、大丈夫ですか」
「なんだ、どうしたのか。わしの寝床を、どこへ持っていったか」
 艇長は怒っていられる。

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