「艇長。只今《ただいま》、重力装置が故障であります」
「なに、重力装置の故障か。それは……」
といいかけたとたん、三郎の身体は、急に目に見えないもののために、すがりつかれたような気がした。
ぴしゃん! 室内は、もうもうと煙立つ。煙ではない湯気であった。
(重力装置が直ったんだな)
と、三郎の頭の中に、そのことが稲妻《いなずま》のようにひらめいたが、とたんに、横の仕切りの扉の向こうに大きなもの音があった。
どすーん。床が、びりびりと震動した。
(あっ、艇長が天井から墜落されたのでなかろうか)
三郎は、あの大きなもの音こそ、艇長の大きなからだが床をうった音だと思った。
「艇長。どうされました」
「ああ風間か。わしのことなら、大丈夫じゃ。今、下におりる」
下におりる。
艇長の声は、三郎の考えていたのとはちがって、やはり天井の方からきこえた。
仕切りの扉が、細目にあいた。そして艇長の顔が、鴨居《かもい》のところから、こっちをのぞいた。
「ああ、艇長。よく、お落ちになりませんでしたねえ」
と、三郎がため息をつくと、艇長は、仕切りの扉をぎしぎしならしながら、それを伝って下へおりな
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