「さっき鳥原さんから、重力のなくなったときの味噌汁の話をきいておかなかったら、ぼくはコーヒーのお化けを見たと思ったにちがいない」
と、三郎は、ためいきをついた。彼のひたいには、ねっとりと、脂汗《あぶらあせ》がでていた。
艇長の安否《あんぴ》
重力装置故障中の五分間は、とても永かった。
三郎は、空中をのたうちまわるコーヒーにさわるまいと、部屋中をにげまわっていた。あのコーヒーの棒にさわれば、たちまち大火傷《おおやけど》をしてしまう。
コーヒーの棒は、まわりに白い湯気《ゆげ》をからませながら、いじわるく三郎をおいかけまわすのであった。
「ああ、早く重力装置が、なおらんかなあ!」
三郎は、あやつり人形のように、ふわりふわりと、身体をかわした。しかし、思わず力がはいりすぎて、いやというほど顔を壁にぶっつけたときは、目から火が出たように思った。
とつぜん、彼の耳に、あやしい響《ひびき》がはいった。
「あれは何?」と、考えてみるまでもなかった。それは、扉をへだてて、奥の寝台の上で寝ている辻艇長の例のいびきだった。
「ああ、艇長は、まだ、よくねむっていられる!」
ふだん
前へ
次へ
全115ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング