ていって、停《と》めようとしても停まらないそうである。
(早く、五分間たってくれますように。そして重力装置が、一刻も早くなおりますように!)
 と、三郎が念じていると、ちょうどその目の前のコーヒー沸しから、妙なものが這《は》いだしてくるではないか。
「あっ、なんだろう、あれは……」
 茶色の飴《あめ》ん棒《ぼう》みたいなものが、コーヒー沸しの口から、にゅーっと横にのびてくる。それは箸《はし》ぐらいの長さになり、それから更にのびて、先生の鞭《むち》ぐらいの大きさにのびた。
「おやおや、たいへんなことになったぞ。一体、あれは何だろうな」
 そのうちに、その茶っぽい棒が、ふらふらしながら、室内をおどるように、うごきだした。しかも、ますます長くなっていく。
 三郎は、すっかりきもをつぶしてしまったが、ようやくこのときになって、あれは重力をうしなったコーヒーが外へ流れだしたのだと気がついた。
 つまり、コーヒー沸しの中では、圧力のつよい蒸気ができて、その圧力でもって、コーヒーの液を口から外へ押しだしたのである。それにはずみがついて、いつまでも、コーヒーは長い棒になって出てきてやまないのであった。
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