が鳴っている。三郎は、おどろいて、その傍《かたわら》へいった。すこし沸きかたが早かったようである。
 扉の向こうで、ぐうぐうと、うわばみみたいないびきが聞える。それは、艇長辻中佐の寝息にちがいなかった。中佐のいびきと来たら、これはだれも知らない者はない。
 三郎は、コーヒー沸しの前に、椅子をもっていって、腰を下ろした。そして、手をのばして、地球儀になるゴム風船が、ぺちゃんこのまま、いくつも押しこんである箱を手にとって、その中をさがしはじめた。
 すこぶるのんびりした朝の風景だった。


   コーヒーと戦う


 風間三郎は、箱の中から、ぺちゃんこになっているゴム風船の一つを引っぱりだした。
 それは、半分が赤で、他の半分が紺《こん》で染めてあった。
 三郎は、それを口にくわえて、ぶーっと息を入れはじめた。
 ゴム風船は、すぐ大きくなった。鶏の卵大の大きさから、家鴨《あひる》の卵大の大きさとなり、それからぐんぐんふくらんで、駝鳥《だちょう》の卵大の大きさとなり、それからまだまだふくれて、さあ飛行機の卵大の大きさとなっていった。
 飛行機の卵? て、そんなものがありますか。ああ、間違いま
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