うしたわけか、すぐ手を放した。そしてその手で、指を折りかぞえ出した。
「ええと、一つ、コーヒー沸しは、もうすこしで、ぶくぶく噴《ふ》き出すぞ。それから二つ、ええと、ゴム風船の地球儀は、印度洋の附近を書いていられるところだと。それから三つ、オルゴールは『愛馬進軍歌』なり。それからもう一つ何かあったようだが……」
 もう一つの引きつぎ事項を、三郎は、胴《どう》わすれしてしまった。
「まあ、いいや」
 で、三郎は、扉を押して中に入った。
 中には、太陽光線と同じ色の電灯がついている。その電球は、天井一面のすり硝子《ガラス》の中に入っているので、下からは見えない。その代り、天井の上に、本物の太陽の光が、さんさんと照りかがやいているような気がする。とにかく、ここは艇長室だから、とくにいろいろ気をつけてあるのだった。
 部屋の正面に、ジュラルミンの扉がはまっていた。その扉には、薄彫《うすぼ》りの彫刻がしてあって、神武天皇御東征の群像が彫りつけてあった。これは、今大宇宙を天《あま》がけりいく、われら日本民族の噴行艇群にうってつけの彫刻だった。
 かたん、かたん、かたん。
 コーヒー沸かしの蓋《ふた》
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