た。
「艇長室に於《おい》て、辻艇長は睡眠中、コーヒー沸《わか》しは、もうすぐにぶくぶくやるだろう。ゴム風船地球儀は、目下|印度洋《インドよう》の附近を書いていられる。艇長九時になっても起きないときは、オルゴールを鳴らして起せ。その外、引きつぐべきこと、および異状なし。おわり」
やれやれ、妙な引きつぎ事項である。しかし艇長室の仕事は、まずこんなところである。風間三郎は、木曾九万一のいったとおりを、もう一度おさらえして喋《しゃべ》ってみる。
「あっ、いい忘れた。オルゴールの曲は『愛馬進軍歌』をやってくれってさ」
木曾のクマちゃん、地金を丸だしにして、あわてて、後につけた。
「分りました。交替艇夫、休息についてよろしい」
「え、えらそうなことを!」
木曾は、赤い舌をぺろんと出して、風間をからかった。そして、うやうやしく挙手の礼をかえして、廊下を向こうへいった。
こうして、風間三郎が、本日の第一直をうけもつこととなった。次の交替時間は十二時であった。だから今から四時間を、艇長室にいて、艇長の身のまわりの用を足《た》すのであった。
風間は、艇長室の扉の把手《とって》に手をかけたが、ど
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