、下へこぼれ落ちもせず、まるでやわらかい餅《もち》が宙にかかっているような恰好《かっこう》で、卓上《テーブル》の上をふわふわうごいているんだ。僕はおどろいたよ。そして、仕方がないから、両手をだして、宙に浮いている味噌汁をつかんでは、椀の中におしこみ、つかんではおしこんだものさ。あははは」
鳥原は、そのときのことを思いだしてか、おかしそうに肩をゆすぶった。
「ずいぶん、おもしろい話ですね」
「おもしろいのは、話として聞くからだ。ほんとうに、こんな目にあってごらん。それこそ、あまりふしぎで、気もちがわるくて仕方がないよ」
そういっているとき、小食堂の天井《てんじょう》にとりつけてあるブザー(じいじいと蜂《はち》のなくような音――を出す一種の呼鈴《よびりん》)が鳴りだした。
「あっ、いけない。もう交替時間だ」
風間三郎は、ひょこんと椅子からとびあがった。
交替時刻
「第六直艇夫、作業やめ。第一直艇夫、持ち場につけ!」
高声器から、先任の当直操縦士の声が、ひびきわたる。
「そら、交替だ」
だっだっだっと、靴音が廊下に入りみだれる。
風間三郎少年は、ほのあかるい廊下を、
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