るのさ。だから、今は、機械をうごかして、この艇内には、人口重力が加えてあるのさ」
「人口重力て、なんですか」
「人口重力というのは、人間の手でこしらえたにせの重力のことさ。そうでもしないと、たとえばこの食卓のうえに味噌汁のはいった椀《わん》がおいてあったとして、お椀をこういう工合《ぐあい》に、手にとって口のところへ持ってくるんだ。すると、お椀ばかりが口のところへ来て、味噌汁の方は、食卓のうえに、そのまま残っているようなことがおこるんだ」
「えっ、なんですって」
三郎には、鳥原のいうことが、すぐにはのみこめなかった。なにしろ、あまり意外なことだったので、
「あまりへんな話だから、分らないのも無理はないよ。その話は、この前、僕が宇宙旅行をしたときに、実際あったことなのさ。そのとき僕はずいぶん面《めん》くらったよ。なにしろ、口のそばへもってきたお椀は空《から》なのさ。そして味噌汁が、食卓のうえに、まるで雲のようにかかっているのさ」
「雲のようにかかっているとは、どんなことかなあ」
「雲のようにというのが、分らないのかね。つまり、よく富士山に雲がかかっているだろう。あれと同じことで、味噌汁が
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