うなものです。
 五分、十分、十五分……。
 航路をやや外《そ》れかかった×の哨戒艦が、俄《にわ》かに艦首を向けかえて、矢のように、こっちへ向って来ます。
 ああ、遂に×の駆逐艦二隻と、第八潜水艦との正面衝突――これはどっちの勝だか、素人にも判ることです。恐らく潜水艦の砲力が及ばない遠方から、はるかに優勢な駆逐艦の十サンチ砲弾が、潜水艦上に雪合戦のように抛《な》げかけられることでしょう。そうなれば一溜《ひとたま》りもありません。
 しかし艦長の清川大尉は、悠々と落ちついていました。味方の四艦からは、もうかなり離れました。そのときです。
「面舵一杯ッ」
 艦長の号令に、艦首はググッと右へ急廻転しました。
 ×の哨戒艦も、これに追いすがるように、俄かに進路をかえました。四千メートル、三千メートル……。×の四門の砲身はキリキリキリと右へ動きました。
「あッ」
 八門の砲口から、ピカリ赤黒い焔《ほのお》が閃《ひらめ》きました。と同時に真黒い哨煙がパッと拡がりました。一斉砲撃です。
 どどーン。どど、どどーン。
 司令塔のやや後の海面に、真白な太い水柱がドッと逆立ちました。まだすこし遠すぎたよう
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