です。
「×艦はあわてているぞッ」
 清川艦長は微笑しました。
「もう少しだ。全速力!」
 ○号潜水艦はありったけの快速力を出して走ります。しかし、×艦はグングン近づいて、いよいよ完全に弾丸のとどく所へ迫りました。砲身には既に新たな砲弾が填《こ》められたようです。こんどぶっ放されたが最後、潜水艦はどっちみち沈没するか、さもなくても大破は免れないでしょう。乗組員の胆《きも》のあたりに、何か氷のように冷いものが触れたように感じました。
 そのときです。
 が、が、がーン。
 さッと周《まわり》をとりまいた黒煙。
「あッ――」
「やられたな、どうした伝令兵!」
 艦長の声です。弾丸は司令塔の一部を削りとって海中へ……。
「しっかりしろ、傷は浅い」と先任将校。
 ×の大砲は、いよいよねらいがきまって来たようです。いよいよ危い次の瞬間……。
「おお、あれ見よ!」
 今や追撃の真最中だった×の哨戒艦の横腹に、突然太い水柱があがりました。くらくらと眩暈《めまい》のするような閃光。と、ちょっと間をおいて、あたりを吹きとばすような大音響!
 どどーン、ぐわーン。
 ×艦の胴中から四方八方に噴き拡る黒煙。
前へ 次へ
全27ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング