お電話であります」
伝令兵は忙《せわ》しく、清川大尉の方へ報告をいたしました。
「うむ。――」
大尉が無線電話機をとりあげて見ますと、待ちかまえたように、司令官の声がしました。
その電話は、×を控えて、二分間ほども続きました。その間に、この難関を切りぬける作戦がまとまりました。
「それでは――」と司令官は電話機の彼方から態度を正していわれました。
「貴艦の武運と天佑《てんゆう》を祈る」
「ありがとう存じます。それでは直に行動に移ります。ご免ッ」
電話機はガチャリと下に置かれました。
(よオし、やるぞッ!)
艦長の顔面には、固い決心の色が、実にアリアリと出ています。
「総員戦闘位置につけッ」
そう叫んだ艦長は、旗艦はじめ四隻の僚艦の行動を、司令塔の上からじッと見ています。四艦はグッと揃って右に艦首を曲げました。そしてグングンと潜航です。見る見る波間に姿は隠れてしまいました。海上に残ったのはわが第八潜水艦一隻だけです。
「水面航行のまま、全速力ッ」
ビューンと推進機は響をたてて波を蹴りはじめました。何という無茶な分らない振舞であろう! まるで、敵の牙の中へ自らとびこんでゆくよ
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