令にしたがえ」
 それを聞くと、五人の操縦員は、いいあわせたように、ぶるぶると体をふるわせた。


   無茶な命令


「そこでわがはいは、本艇の航路をしめす。地図を出せ」
 ケレンコはいった。
「地図は、ここにある」
 ダン艇長が、壁を指さした。航空用の世界地図が、はりつけてあった。そのうえには、赤や青やの鉛筆で、これまで通ってきた航路やなにかがしるされていた。
「ふん、これか。なるほど本艇はいま、ここにいるのだな。しめた。マニラからよほど北にそれているのだな」
「外はひどい暴風雨です。だから北へ避けているのです」
 操縦長スミスが、ひきつったような声でこたえた。
「本艇の針路を、もうすこし北へまげろ。もう二十度北へ」
「え、もう二十度も北へですって」
 操縦長スミスはおどろきの声をはなち、
「それじゃあんまりです。マニラへはいよいよ遠ざかり、太平洋のまん中へとびこんでゆくことになります」
「わかっている。いいから、わがはいの、いうようにするんだ。君は命令にそむく気じゃあるまいな」
「でも、そっちへ行けば、マニラへひきかえすだけの燃料がありません。海の中におちてしまっていいのですか
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