」
「だまって、わがはいの、いうとおりにしろ。それから、スピードをあげるんだ。いまは毎時二百キロしかでていないようだが、それを三百五十キロにあげろ」
ケレンコは、どうするつもりか、途方もないことをいい出した。
「え、三百五十キロ? この暴風雨の中に、三百五十キロ出せとおっしゃるのですか。そ、そんなことはできません。そんなことをすると、飛行艇のスピードと暴風の力とがかみあって、艇がこわれてしまいます」
スミス操縦長は、きっぱりとケレンコの命令をことわった。
「なに、できないって」
ケレンコの眼が、ぎらぎら光った。
「よし、できないというのなら、貴様に用はない。覚悟しろ」
パーン!
「あ!」
スミス操縦長の頬をかすめて、銃弾はとんだ。その銃弾は銀色をした壁をうちぬき、艇外にとび出した。とたんに、その穴から、しゅうしゅうと、はげしい風がながれこんできた。
スミス操縦長の頬からは、鮮血がぽたぽたとながれおちる。かれは決心したもののごとく、また計器をにらみながら一心に操縦桿をひく。彼もアメリカ魂をもつ勇士の一人だったのである。
「もう一度いう。針路を北へもう二十度。そしてスピードを三
前へ
次へ
全194ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング