いそうです。北々西の風、風速二十メートルだといってました」
「そうか」
艇長は、それだけいって唇をかんだ。
その時、一番奥の器械の前についていた通信士が、両耳受話器に手をかけながら、こっちをふりむいた。
「通信長。ニューヨーク本社が出ました」
「なに、本社が出た。それはお手柄だ」
通信長は、竹竿をつないだような細い体を曲げて、奥へとんでいった。そして別の受話器を耳にかけた。
「はあ、はあ、ダン艇長がいま出ます」
「おお、本社が出たか」
ダン艇長の頬に血の色が出た。
「ああ本社ですか」
艇長の声は、上ずっていた。
「なに、専務ですか。いや、しばらくでした。ところで、例の二人組の共産党員ですがね、こっちじゃ分からなくって困っています。これにのりこんだことは、たしかなのでしょうね」
しばらく艇長の声がとぎれた。
「ははあ、そうですか。すると、たしかに乗っているわけですね。では、そっちにその二人の人相書かなんかありませんか。ええ、何ですって。写真、それは素敵です。では、すぐその写真を電送して下さい。こっちの用意をさせますから」
艇長は、まっ赤に興奮している。
「おい、写真電送で、
前へ
次へ
全194ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング