も》しも瓦斯がだんだん溜《たま》って来て危険が近づいて来ると直ちに声をあげ、警戒を与えると共に、電話をかけて事務所へ知らせる。瓦斯がどの位溜ってきても平気でそれを刻々報告する。そして大爆発がおこると、そのままテレボックスは、殉職《じゅんしょく》をしてしまうわけだが、こんな危険な役目をひきうけ、しかも人間わざでは到底《とうてい》出来ない正確さで、報告をするところなどは、人造人間でなければ、どうしたってできる真似ではない。
或る人の話によると、テレボックスは、自分が働いているうちに内部の器械の故障のために働きがわるくなると早速《さっそく》、組長に電話をかけて、身体の工合のわるいことを報告して来るのが居るそうである。
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紐育《ニューヨーク》の博物館には、人造人間の番人が居て観覧人が入って行くと、「どうぞ、記録帖に、御記名下さい」と呼びかけて来るそうである。
この種の人造人間は、泥棒よけには、もって来いである。真暗な邸宅の中に、泥棒が入って来て、震動をさせたり、或いは、懐中電灯をサッと向けると、「泥棒、そこをうごくな」と怒鳴って警笛をならし、警察へ電話をかける。泥棒が吃驚《びっくり》して、ライフルをぶっぱなしても、人造人間は、鋼製の皮膚を持っているから、それこそ弾丸があたっても、蚊《か》が喰いついたほどにも感じないことであろう。
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こういう風に、人造人間《ロボット》の働きぶりを挙げてゆくと中々きりがないのである。
さて人造人間は、どうして、そんなに働くことが出来るのか。その秘密をあばいて御覧にいれよう。
人造人間のうち最も簡単なものは、モートルや、ゼンマイ仕掛けで、いろいろと手足を動かし、首をふり、口を開き、眼玉をうごかすものである。我が国でも、甘栗《あまぐり》太郎の店頭にはノンキナトウサンの人造人間が、このような所作《しょさ》をして甘栗の宣伝をしていた。巴里《パリー》で、かつて、衣裳やさんが、このような仕掛けの美しいモデル人形をつかって流行の衣裳をダイナミックに見せたことがある。このような簡単なものは、ずいぶん古くからあったもので、僕が少年時代、神戸の湊川《みなとがわ》が、まだ淋しい堤防であったとき、その上に掛かった小屋で、「活《いき》人形」を見たのを覚えている。もう二十年以上も昔のことである。これは舶来の人形で、煙草をふかしたり、帽子をとってお辞儀をしたり、お酒を呑んでみせたりした。
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近代的な人造人間は、こちらから人造人間に喋ると、それに応じて、返事をしたり、または、その命令どおりに行動するのである。これは、人造人間の中に、ラジオで使うのと同じマイクロフォンが備えつけてあり、それを通じて、音声が電流となり、その電流を、ラジオの増幅器《アンプリファイヤー》と同じもので大きい電流に直し、それを選択器《セレクター》に入れて、人造人間に言われた命令が如何なる意味のものであるかを分析し、それによって、恰度《ちょうど》、自動ピアノの孔のあいたロール紙のようなものが沢山並んでいるその一つが働き出す。それには、其後の人造人間の行動のスケジュールがちゃんと記録されて居るから、機械力が適当に働いて、その定められたとおりの歩行や、運搬や、開閉やを行い、又はちょうど、トーキーのフィルムのようなものが働き出して、人造人間の口のあたりからラウドスピーカーを通じて、「ロボットの御返答」として人造人間の声をきくことも出来るのである。
しかし、人造人間への命令や、質問の文句は、非常に簡単で、しかもある特定の文句でないと人造人間は働かないことになっている。例のテレボックスの長兄《ちょうけい》のごときは、英語で命令しても駄目であって、高音、中音、低音から成る符号のようなものを、こちらから叫んでやると、初めて働くのである。たとえば、高い音を出して、「アー、ア、アー、アー」とか言ってやれば、窓をしめるし、低音で、「アー、ア、アー、アー」というと椅子を後に引いて暴れたりする。それを間違えば、大変な間違いとなる。何しろ力が強いから、窓を開けと注文したつもりでいると、椅子を後に引かれて尻餅をつき、喧嘩にならぬ苦がわらいをすることもある。
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其後テレボックスへの喋る音は、文句でもよいことになった。このテレボックスが出来たウェスティングハウス電気会社のイースト・ピッツバーグの研究所の門は、客が来ると自動的に開くような仕掛けになっているが、それには扉の前で“Open, sesame !”(開けごまの実)と叫ぶと自然に開く、しかし間違って「開け、けしの実」などと呶鳴っても駄目らしい。
先年上野の松坂屋の1999年展覧会で出演したロボットは、どんなことを、どんな言葉できいても、即座に返事
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