人造物語
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)人造人間《ロボット》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)人造|絹糸《けんし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)こうした人造もの[#「もの」に傍点]は
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 人造人間《ロボット》――1931年型である。
     *   *
 人造人間とはどんなものか。
 人造人間とは、人間が作った人形で、そいつは、機械仕掛けで、人間の命令どおり、忠実に根気よく働く奴だ。
     *   *
 さて、その人造人間が、ようやく、その存在を認められかけて来たようだ。
 本誌「新青年」の新年号に、「人造人間殺害事件」という探偵小説が出たのも、その一つ。前号には畏敬《いけい》する直木《なおき》三十五氏の「ロボツトとベツドの重量」というのが出た。
 すこし前に、東京上野の松坂屋で、1999年の科学時代の展覧会があって、そこに人造人間が舞台に立ち、みなさんと交歓した。
 今年の正月には、朝日新聞の招聘《しょうへい》で、人造人間《ロボット》レマルク君が独逸《ドイツ》から、はるばるやって来て、みなさんの前に、円満な顔をニコニコさせて御挨拶《ごあいさつ》があった。
     *   *
 二月一日の東京朝日には、宮津《みやづ》電話として次のような記事が載っていた。
「ロボット流行時代であるが、京都府宮津中学校の四年生岡山大助君という少年が今度、人造犬《じんぞういぬ》を発明した、これは犬の腹中《ふくちゅう》に電話器、モートル、電磁石、高圧器、真空管、スピーカー等を材料にして、でっちあげた機械がしかけてあるので、大助君の先生も手伝った。この人造犬は、足音をさせたり口笛を吹いたりすると、その音が送話器から電流を通じてモートルに働きかけ、その結果として犬は後退《あとじさ》りをしながら「ウーウー」とうなる。うなり声はスピーカーによって大きくもなれば小さくもなる。というから泥棒よけにはあつらえ向きだ」とある。
 いよいよ、油断も、隙もならぬ世の中となってきた。
     *   *
 この種の人造人間《ロボット》は、いつから人間の脳裏《のうり》に浮びあがったかというと、それは随分と古いものらしい。ギリシャ神話の中にもそれがあったように思う。
 エデンの園《その》で、アダムの肋骨《ろっこつ》を一本とってそれからイヴという美しい女を作り給うた、というのは、形式的には神様のなせる業《わざ》ではあるようなものの、その考えは、無論、人間の頭脳から発生したことは言うまでもない。
 古事記によると、我が国の神達は、盛んに国土を産み、いろいろ特殊の専門というか、技術を弁《わきま》えられたさまざまの神々達を産むことに成功し給うたと書いてある。これも、人造人間の思想と見てさしつかえないであろうと思う。
     *   *
 幼いとき、小学校の「山羊《やぎ》」という綽名《あだな》のある校長さんから、面白いお伽噺《とぎばなし》をして貰ったが、その中で、最もよく覚えているのは、こんな噺であった。
 宝を探しに行く兄弟のうち、末の弟は大変情けぶかい子であったが、それがために、秘術を教わった。その秘術というは、なんでも木片《もくへん》をナイフでけずって、小楊子《こようじ》みたいなものを造り、それを叩いて「動け!」というと、その木屑が、起《た》ちあがってヒョックリ、ヒョックリ躍り出す。そのとき、もう一度、それを手で叩いて、「成《な》れ!」というと、その木屑の一つが、立派な一人の兵士になるのである。その兵士を連れて、反逆者の悪臣どもを退治して、宝とお姫様とを貰うという筋であった。これも木屑で、思いどおり、兵士をつくりあげるところが、人造人間の思想である。
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 西遊記の中に、孫悟空が、自分の毛をひとつかみ引きぬき、これに呼吸《いき》をかけてフウーッと吹きとばすと、ああら不思議、その数だけの小猿になったという話がある。これは人造人間でなくて、猿造猿公《えんぞうえんこう》であるが、これも同じ思想である。
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 こう云う類の人造人間は、伝説などの中から拾い出せば随分沢山にあることだから、この位にして置こう。
 その次に、人造人間として、「人形」というものを見落してはならない。
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 これは、我が国では、埴輪《はにわ》人形の昔より、人間や、人間が愛していた動物などの形をつくって、それが生埋《いきう》めになることからのがれさせて呉れたのであるが、その後、愛玩物としての人形が発達した。
 その中でも異色のある人形は、案山子《かかし》と、左甚五郎作の京人形とであろう。
 案山子は、雀《すずめ》や烏《からす》を相手に、「おれはお人間
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