さまだぞ。近寄って大事な稲を食うと、からき目にあわせてやるぞ」と威張ったが、雀の方では、二三度は鳴子《なるこ》というトーキー式演出に驚かされたが、早くも、それが人造人間であることを看破し、その後は案山子の上に糞《ふん》をしかけるという仇討《あだうち》まで、やらかした。
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 京人形は、伝説ながらも、完全なる人造人間として、その頃まではスタティックな人形が、遂にダイナミックな人形となって、左甚五郎氏に奉仕したのであった。
 これに類したものでは、泪《なみだ》で床の上に画いた鼠が、本物の鼠になったとか、屏風《びょうぶ》の虎がぬけ出したとか、襖《ふすま》の雀が毎朝庭へとび降りて餌を拾った、などという話もある。
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 人形のうまく出来上ったものには、魂が入るのだといい、江戸川乱歩氏は、「人でなしの恋」を書かれて、人形に恋した男が蔵の中で、人形とホソボソ睦言《むつごと》を囁き、あげくの果は、美しい夫人を残して、その人形と情死するという筋を描かれた。
 花屋敷には、普段の入場客と寸分たがわぬ人形が園内に置いてあって、奇怪なエピソードを幾度となく作っている。
 独逸《ドイツ》のボッヘ誌によって、昨年紹介された独逸の名人形師の家に、ずらりと並べられた身体の真白な女性の人形をみていると、なんだか、妙な興奮と、寒気を覚えたことであった。
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 さて、今日云うところの人造人間《ロボット》の方は、今のところ、甚だ志操堅固《しそうけんご》な、いわゆる堅造《かたぞう》ばかりで、性的サーヴィスをやって呉れるのは、ないようである。
 今日の人造人間をはじめ、多くの人造ものを産んだのは、このところ五十年ばかりの間に、異常な発達をとげた電気工学、物理化学のおかげである。
 人造人間は、まず措《お》くとするも、人造|絹糸《けんし》、人造酒、人造染料、人造肥料、人造光線、人造真珠、人造宝石、などと、数えてゆけば、きりがない。これ等の造品《ぞうひん》は、天然物の模造として代用品の役目をつとめるばかりではなく、天然物より勝《すぐ》れた点を多く持っている。人絹だと最初は、軽蔑せられた人造絹糸も、今日は天然絹糸と肩を並べて工業界に進出し、天然絹糸と人造絹糸とは、製品としての分野がはっきりわかれ、お互に持ちつもたれつの発展をつづけている。
 人造染料が、天然染料よりも遥かに優秀な成績をあげていることは、これまた愉快なことである。
 人造光線というのは、ビルディングが発達すると共に、ますます需要が多くなるだろうと思われるが、これは大きい広間《ホール》の天井を擦《す》り硝子《ガラス》張りとして、その上に太陽のスペクトルと同じスペクトルの電灯を点じて、あたかも、その広間の上は青天井で、雲雀《ひばり》でも舞っていそうな感じが出るのである。これなどは、たしかに執務の能率をあげるものとして、ますます需要が高くなってよい。四十階のビルディングの、その何十何階かに、小さくなっておしこめられていることが、ハッキリわかるのは全く面白くないことである。錯覚でもよいから、春の和《なご》やかな陽あたりを感じ、雲雀の舞いあがる気配を感じたい。
 だが、こうした人造もの[#「もの」に傍点]は、どうも話が面白くないので、この辺でやめることとし、人造人間《ロボット》の方へ方向舵《ほうこうだ》をむけることにしよう。
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 楽屋落ちの昔咄《むかしばなし》を一つ。
 それは今から七年ほどの昔に、本誌に御馴染の延原謙《のぶはらゆずる》氏が、人造犬や人造人間を題材にした小説を発表せられた、と云うと鳥渡《ちょっと》、僕達には面白いことなのである。その小説の名は「電波嬢」というのであって、これは延原謙氏も未だに御存知ないことだろうが、僕がその小説の挿絵を画いたのである。
 いつも僕は自分で小説を書いてしまうと、あとはその小説にどんな挿絵が画いてもらえたかと、それが恋人を待っているように、待たれるのである。自分の描想《びょうそう》以上に、描かれた人物の性格などが、はっきりと出ていたりすると、その日一日は、顔の造作《ぞうさく》を崩して、自分でも恥かしいくらい、喜ぶのである。
 延原氏が、僕と同じ考えを持っていられるかどうかは知らないが、若し同じ考えをお持ちならば、僕の画いた挿絵は、すくなくとも氏を二三日|立腹《りっぷく》させて置くに充分だったろうと思い、妙な場所柄ではあるが、ここに謹《つつし》んで、お詫び申上げておく次第である。
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 さてその「電波嬢」には、ウェルズ博士というのが現れる。この博士はエッチ・ジー・ウェルズそっちのけの科学的空想家で、モートル仕掛けのセントバナド種型の犬を作りあげる。博士は、その後に、「電波嬢」一名メリー・ウ
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