に突き刺して附近に出没《しゅつぼつ》し、そのたびに、青竜刀《せいりゅうとう》がなくなったり、取っておきの老酒《ラオチュー》の甕《かめ》が姿を消したり、泣《な》き面《つら》に蜂《はち》の苦難つづきであったが、しかもなお彼は抗日精神《こうにちせいしん》に燃え、この広大なる濠洲の土の下に埋没《まいぼつ》している鉱物資源を掘り出し、重工業を旺《さか》んにし、大機械化兵団を再建してもう一度、中国大陸へ引返し、日本軍と戦いを交《まじ》えたい決意だった。それからこっちへ十年、遂にこの砂漠の一劃に、十年計画の重工業地帯が完成したのを機に、密使《みっし》油蹈天《ゆうとうてん》をはるばる上海《シャンハイ》に遣《つかわ》して、金博士の最新発明になる“人造人間戦車”の設計図を胡魔化《ごまか》しに行かせたのであった。
 今や工学士油蹈天は、大任《たいにん》を果《はた》して、めでたくこの砂漠へ帰ってきたのであった。醤の喜びは、察するに余りある次第であった。
「おい、油学士。見れば見るほどすばらしい製図ではないか」
 醤は、どう褒《ほ》めてよいか分らないから、製図の見事なところを褒めることにした。
「はい。それだけ
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