、寒山寺《かんざんじ》のさわやかなる秋の夕暮を想い出すそうである。――なにしろ、ここは、人跡《じんせき》まれなる濠洲《ごうしゅう》の砂漠の真只中《まっただなか》である。詰襟《つめえり》の服なんか、とても苦しくて、着ていられなかった。
この砂漠に、醤|麾下《きか》の最後の百万名の手勢《てぜい》が、炎天下《えんてんか》に色あげをされつつ、粛々《しゅくしゅく》として陣を張っているのであった。
これは余談《よだん》に亘《わた》るが、彼れ醤は、日本軍のため、重慶《じゅうけい》を追われ、成都《せいと》にいられなくなり、昆明《こんめい》ではクーデターが起り、遂に数奇《すうき》を極《きわ》めた一生をそこで終るかと思われたが、最後の手段として、某所《ぼうしょ》に於て、英国政権に泣きつき、その結果、或る交換条件により、醤およびその麾下は、海を渡り、赤道を越え、遥かにこの南半球の濠洲のサンデー砂漠地帯の一|区劃《くかく》に移駐《いちゅう》することを許された次第《しだい》であった。
ここでは、熱砂《ねっさ》は舞い、火喰《ひく》い鳥は走り、カンガルーは飛び、先住民族たる原地人は、幅の広い鼻の下に白い骨を横
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