常用戦車《じょうようせんしゃ》の中に乗り込み、文字どおり砂塵《さじん》を蹴たてて西進し、重工業地帯へ出動するのであった。
 そこでは、これまた、得意の絶頂《ぜっちょう》にある油蹈天学士《ゆうとうてんがくし》が待っていた。彼は、この重工業地帯長官ということになっていて、かの金博士の発明になる人造人間戦車の部分品の製造監督に、すこぶる多忙《たぼう》を極《きわ》めていた。
「どうじゃな、油学士。どうも生産スピードが鈍《にぶ》いようじゃないか」
 醤主席が到着すると、すぐいい出す言葉はこれであった。工場の中を見ないうちに、このおきまり文句《もんく》をぶっぱなすところが、主席の得意な嚇《おど》かしの手だった。
「え、とんでもない。仕事は、たいへんに進捗《しんちょく》して居ります。ちと、こっちを巡覧《じゅんらん》していただきましょう」
 油学士は、猿《さる》が飴玉を口に入れたように頬をふくらませ、主席を案内していくところは、毎朝多少ちがっていたが、結局、主席が最後ににこにこ顔で腰を据《す》えるところは、外ならぬ人造人間戦車の主要部分品であるところの人造人間が、山と積まれている倉庫の前であった。

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