、実に、人造人間にして、且つ又、戦車であるのであります」
「余《よ》には、さっぱり意味が分らん」
「つまり、ソノ金博士の申しまするには、ここに百人から成る人造人間の一隊がある」
「ふん。人造人間隊がねえ」
「この人造人間隊が、隊伍を組んで、粛々前進してまいります。お分りでしょうな」
「人造人間隊の進軍だね」
「はい。このままで放って置けば何日何時間たっても、遂に人造人間隊でございますが、必要に応じて、司令部より、極秘《ごくひ》の強力電波をさっと放射いたしますと、これがたちまち戦車となります」
「そこが、どうも難解だ。極秘の強力電波を放射すると、なぜ人造人間隊が戦車となるのか。お前の話を黙って聞いていると、まるで狐狸《こり》の類《たぐ》いが一変して嬋娟《せんけん》たる美女に化《ば》けるのと同じように聞える。まさかお前は、金博士から妖術《ようじゅつ》を教わってきたのではあるまい」
醤主席の言葉は、油学士の自尊心を十二分に傷つけた。
「どうもそれはけしからん仰《おお》せです。かりそめにも、科学と技術とをもってお仕《つか》えする油学士であります。そんな妖術などを、誰が……」
「ぷんぷん怒るのは後にして、説明をしたがいいじゃないか。お前は、すぐ腹を立てるから、立身出世《りっしんしゅっせ》が遅いのじゃ」
主席に、一本きめつけられ、油学士は、はっと吾れにかえったようである。
「はっ、これは恐縮《きょうしゅく》。で、その秘術は、かようでございます。只今申した極秘の電波を人造人間隊にかけますと、その人造人間隊は、たちまちソノー、主席はフットボールを御覧になったことがございますか」
「余計なごま化《か》しはゆるさん」
「ごま化しではございません。フットボール競技に於て、さっとプレーヤーが、さっとスクラムを組みますが、つまりあれと同じように、人造人間が、たちまちスクラムを組むのでございます。そしてたちまち人造人間のスクラムによって、一台の戦車が組立てられまして、こいつが、轟々《ごうごう》と人造人間製のキャタピラを響《ひび》かせて前進を始めます。いかがでございますか。これでもお気に召しませんか」
3
醤主席は、今や極上々《ごくじょうじょう》の大機嫌《だいきげん》であった。
彼は、毎朝早く起きて、砂漠の下の防空壕《ぼうくうごう》を匐《は》いだすと、そこに出迎えている常用戦車《じょうようせんしゃ》の中に乗り込み、文字どおり砂塵《さじん》を蹴たてて西進し、重工業地帯へ出動するのであった。
そこでは、これまた、得意の絶頂《ぜっちょう》にある油蹈天学士《ゆうとうてんがくし》が待っていた。彼は、この重工業地帯長官ということになっていて、かの金博士の発明になる人造人間戦車の部分品の製造監督に、すこぶる多忙《たぼう》を極《きわ》めていた。
「どうじゃな、油学士。どうも生産スピードが鈍《にぶ》いようじゃないか」
醤主席が到着すると、すぐいい出す言葉はこれであった。工場の中を見ないうちに、このおきまり文句《もんく》をぶっぱなすところが、主席の得意な嚇《おど》かしの手だった。
「え、とんでもない。仕事は、たいへんに進捗《しんちょく》して居ります。ちと、こっちを巡覧《じゅんらん》していただきましょう」
油学士は、猿《さる》が飴玉を口に入れたように頬をふくらませ、主席を案内していくところは、毎朝多少ちがっていたが、結局、主席が最後ににこにこ顔で腰を据《す》えるところは、外ならぬ人造人間戦車の主要部分品であるところの人造人間が、山と積まれている倉庫の前であった。
(やあ、いつ見ても、ええものじゃのう)
主席は、心の中で、すこぶる満足の意を表《ひょう》するのであった。
そこには、出来たばかりの人造人間が、ぴーんと硬直《こうちょく》したまま、ビールの空壜《あきびん》を積んだように並べられてあった。実に、世にもめずらしい光景であった。
「おい。油学士。この人造人間は、もううごくようになっているか」
「いや、まだでございます」
「なんじゃ。うごかないものを、どんどんこしらえて、どうするつもりか」
「すべて合理的な能率的なマッス・プロダクションをやって居りますです。人造人間をこしらえるときには、人造人間だけをつくるのがよいのであります。主席、どうか製作に関しては、いつも申上げるとおり、すべて私にお委《まか》せ願いたいものです」
「それは、委せもしようが、しかしこんなに一時に作っても、これが万一やりそこないであって、さっぱりうごかなかったら、そのときは一体どうするのか。百万台をまた始めからやりかえるのは困るぞ。それよりも、一台の人造人間戦車に必要な各部分を一組作りあげ、それで試験をしてみて、うまく動いてくれるようになれば、次にまた第二の戦車を一組作るとい
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