研究所の門前に近づいた。石段の上に、玄関の扉が開け放しになっていて、その奥には電灯が一つ、荒涼《こうりょう》たる光を投げていた。しかし人影はない。
 彼は構わず石段をのぼっていった。石段を上りきったと思ったら、
「こらッ」と大喝一声《だいかついっせい》、塀のかげから佩剣《はいけん》を鳴らして飛びだしてきた一人の警官! 帆村の頸《くび》っ玉をギュッとおさえつけた、帽子が前にすっ飛んだ。
「まあ待って下さい。帆村ですよ」
「なんだ、帆村だとオ。――」警官は愕いて彼の顔を覗《のぞ》きこんで「――やあ、これはどうも失敬。帆村さん、莫迦《ばか》に嗅ぎつけようが早いじゃありませんか」
「なアに、この辺は僕の縄ばりなんでネ」
 といって彼は笑った。帆村理学士といえば道楽半分に私立探偵をやっていることで警官仲間によく知れわたっていた。彼の学識を基礎とする一風変った探偵法は検察当局にも重宝《ちょうほう》がられて、しばしば難事件の応援に頼まれることがあった。かれは有名な悪口家《わるくちや》で、事件に緊張している下《した》ッ端《ぱ》の警官たちの頤《あご》を解く妙法を心得ていた。
「ねえ君。これは逃げた梟《ふ
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