人造人間事件
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)築地《つきじ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)理学士|帆村荘六《ほむらそうろく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さっきのあれ[#「あれ」に傍点]
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 理学士|帆村荘六《ほむらそうろく》は、築地《つきじ》の夜を散歩するのがことに好きだった。
 その夜も、彼はただ一人で、冷い秋雨《あきさめ》にそぼ濡れながら、明石町《あかしちょう》の河岸《かし》から新富町《しんとみちょう》の濠端《ほりばた》へ向けてブラブラ歩いていた。暗い雨空《あまぞら》を見あげると、天国の塔のように高いサンタマリア病院の白堊《はくあ》ビルがクッキリと暗闇に聳《そび》えたっているのが見えた。このあたりには今も明治時代の異国情調が漂っていて、ときによると彼自身が古い錦絵《にしきえ》の人物であるような錯覚《さっかく》さえ起るのであった。
 通りかかった火の番小屋の中から、疳高《かんだか》い浪花節《なにわぶし》の放送が洩《も》れてきた。声はたいへん歪《ゆが》んでいるけ
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