送されたのです。出演者はPCLの連中でしたがネ。そんなわけで私はずっとAKのスタディオにつめていたんです。なんなら貰って来た原作ならびに演出料の袋をお目にかけてもいいのですが」
「あああの『空襲葬送曲』というやつですネ」
 と帆村が横合《よこあい》から口を出した。
「そうです。お聞き下さったですか」
「ええ聞きましたよ。なかなか面白かったですよ。あの地の文章を読んでいたのは、千葉早智子《ちばさちこ》ですか」
「ええええそうです。どうかしましたか」
「いや、今夜はお早智女史、いやに雄壮な声を出していましたネ」
「それはそうでしょう。戦争ものですからネ。緊張するのも無理はありません」
 二人は事件をそっちのけにして、ラジオドラマの話に熱中していた。
 こっちでは大江山課長が雁金検事の前に近づいていった。
「ウララ夫人を早く捜しださにゃいけませんネ。一度外から帰って来て、死んでいる博士をそのままにして外へ出たという行動は腑《ふ》に落ちませんネ。警察とか医師とかにすぐ電話すべきが本当ですからネ」
「君、あの留守番のばあやは大丈夫かネ」
「あああれは大丈夫ですよ。老人なんで、なにが出来るものです
前へ 次へ
全34ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング