らせ、傍に馬のような荒い鼻息をたてている帯広警部の太い腹をついて云った。
「――サンタマリア病院のジョン・マクレオだ。現場不在証明《アリバイ》を調べること」
 警部は返事の代りに、お尻のポケットから手帖を出して書きこんだ。
 馬詰丈太郎は煙草《たばこ》を一本口にくわえて、いささか得意げであった。
「オイ馬詰」と突然叫んだのは大江山捜査課長であった。
「他人の話なんか、お前に聞かされないでもいいんだ。それよりお前の現場不在証明《アリバイ》を聞こうじゃないか。博士の殺害された今夜の八時前後、お前は一体何処にいたんだ。それを云え」
「私が何処にいたというのですか、折角《せっかく》ですが、それは別に御参考にはなりませんよ」
 と丈太郎は自信たっぷりだった。
「くわしくいうと、私は今夜七時三十分から八時五十分までJOAKにいましたよ」
「なんだ放送局にか。そこで何をしていたんだ」
「なにって……」と彼は答えるのをやめて、煙草を口に持っていって美味《おいし》そうに喫《す》った。
「AKの文芸部に訊《き》いてごらんになれば分りますよ。つまり早くいうと、私の書いたラジオドラマが今夜八時から三十分間、放
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