の盃が自動的に中にかくれるのが見えた。
「はははは、どうです。面白いでしょう。あれも本物の豚ではなく、私がつくった人造豚《じんぞうぶた》です」
「はーん、あれは人造豚ですか。おどろいたなあ」
「あたし、なんだか気味がわるくなったわ。兄ちゃん、もうかえりましょうよ」
マリ子はしきりに兄の横腹《よこっぱら》をつつき、邸を出ようとさいそくした。
「ちょっとお待ちください。もっと面白いもの見せます。自慢の人造人間《ロボット》エフ氏、見せます」
「もうたくさんだわ」
「いや、人造人間エフ氏、なかなかりっぱな人間です。見ておくと、話の種になります。あなたがた近く日本へかえります。よい土産《みやげ》ばなしができます」
正太はそれを聞きとがめ、
「えっ、僕たちが日本にかえることを、どうして博士はご存知なんですか」
「はははは。それは皆わかります。私には世界中のことが何でもすぐわかります」
博士は、別におかしくもないことを、ははははと声を出して笑いつづける。
未完成のエフ氏
正太とマリ子の父は、このウラジオに店をもっている貿易商だった。二人の母は病弱で、郷里の鎌倉にいるが、だいぶん
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