一生けんめいだ。
「あっ、釦《ボタン》がおちている。うむ、これはマリ子の服についていたのが、ちぎれて落ちたんだ。ちくちょう、エフ氏はマリ子をいじめているんだな」
 そう叫んで、正太はまた足をはやめて山道をのぼりだす。
「おい、待ってくれ。わしをひとりおいていっちゃいけないじゃないか。おいおい、わしゃ、こんなさびしい山の中はきらいじゃよ」
 正太は、それに耳をかさず、どんどんと山をのぼっていく。妹をすくいだしたい一心だ。
 大辻もたのみにならなければ、大木老人などを追いかけている帆村探偵も、さらに役に立たない。そのうちに、見上げるような大きな巌《いわお》が正太の行手をふさいだ。
「あっ、大きな巌だなあ」人造人間エフ氏の足あとは、その巌の前で消えてしまっている。側の道は右へ曲っているが、ここには人造人間の足あとはなかった。
「へんだなあ」見上げると、人間の背丈の四五倍もあるような大岩石《だいがんせき》だった。人造人間はこの巌のなかに入ったらしく思えるが、こんなかたい岩のなかにどうして入れようぞ。
「どうもふしぎだ」正太は、巌のまわりを見まわした。そこには雑草がしげっている。まさかと思ったが
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