》にでて、このありさまをすべてみてしっていた。
「やあ大木さん。あなた、あまりさわがないでください。船客たちのなかには、気のよわい方もいますからね」
大木さんというのは、この老紳士の姓であった。
「だって、これがさわがずにいられますかね。だからわしは、船の出る前から、船長にあれほど注意しておいたのじゃ。たしかにこのウラル丸は、港をでるまえから、わるいやつに狙《ねら》われていたんじゃ。うっかりしていると、このウラル丸は沈没してしまいますぞ」
老紳士は、目のいろをかえていた。
犯人か?
船長は、わざとおちつきをみせ、
「大したことはありません。いざといえば、軍艦がすぐたすけにきてくれますよ」
というが、大木老人はなかなかおちつけない。
「では、すぐ手はずをととのえたがいい。この船には、わしがこんな年齢《とし》になるまで汗みずたらしてはたらいて作った全財産が荷物になっているのじゃ。船が沈没してしまえば、わしの一生はおしまいじゃ。あれあれ、あの信号旗はなにごとじゃ。それから、この船から放りだした赤と黄との煙の信号は、あれはなにごとじゃ」
「あの煙のことは、私もあやしいとお
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