よ」
「なんだ、この少年と似ているのか。ふーん、じゃ、あの化け物もかわいい少年なんだね」
「そうです。似ているというよりも、双生児《ふたご》のように、いやそれよりも写真のようにといった方がいいでしょうが、この正太君そっくりなんです」
「なんだ双生児《ふたご》なのか」
「いや、双生児のようによく似ているというはなしです。それがたいへんおかしい。だから私は、こう考えているのです。あの怪少年は、人造人間にちがいない」
「えっ、人造人間? はははは、君はますますへんなことをいうね」
「いやじつは、さっき正太君から聞いた話で思いあたったのですが、あの怪少年こそ、ウラジオの人造人間研究家のイワノフ博士がこしらえた人造人間エフ氏じゃないかと思うのです。これはこれからのち、よくしらべてみないとわかりませんけれど」
「人造人間エフ氏!」
「いよいよこれはなんだかわからなくなった」
 そういっているとき、さっきから二人の傍《そば》に立って爆発現場《ばくはつげんじょう》を見まわしていた正太少年は、いきなり大きなこえをはりあげ、
「あっ、あそこに大木老人がいる。僕ちょっといって、大木老人にあってきます」
 それをきいた帆村は、正太の指さしている方を見た。なるほど髭《ひげ》だらけの眼鏡をかけた老人が、なんの用事があってか、壊《こわ》れた火薬庫のあとをうろついている。
「ちょっとお待ち、正太君。あの老人にあうのは、ちょっと待って下さい」
「なぜ大木老人にあってはいけないのですか。あの老人は、僕にもマリ子にもたいへん親切だったんですよ、さっき、僕が帆村さんにくわしくお話したでしょう」
「それはわかっています。それだから、ちょっと待ってくださいと、とめたんです」といって帆村は正太の顔をじっと見て、
「ねえ正太君。私はあの老人を一番あやしいと睨《にら》んでいたのですよ。なんだってあの老人は、怪少年があらわれると、いつでもかならずそのあとに姿をあらわすのでしょうか」
「僕、大木老人はいい人だと思うがなあ。船の中でも、僕のことをたいへんかばってくれましたよ。あのとき僕は、もうすこしで船の中の牢屋《ろうや》にいれられるところだったんです。そのとき大木老人がきてくれて、僕が無罪だということをさかんにいってくれたんです。だから僕は、牢にも入らないで、船の中をずっと自由に歩きまわることができたくらいなんですよ」
「それがどうもあやしい」
「あれ、どうしてです。僕を助けてくれた人があやしいとは、わけがわかりませんよ」
「いや、いまによく分るでしょう。私には、大木老人となのるあの怪人物が、なにをもくろんでいたか、分るような気がするのです。正太君、いま僕のいった言葉を忘れないように」
「どうもへんだあ」
 正太は、帆村探偵のいったことが、なかなかのみこめなかった。探偵は、大木老人を何者だと考えているのだろうか。


   裏山の怪


 帆村探偵は、大木老人のあとを、どこまでもついていってみるといいだした。正太はそれをきいて、むだなことだと思った。それよりも、人造人間エフ氏かもしれないというその怪少年をおいかけた方がいいと思い、帆村にはなすと、探偵は、
「とにかく私は、大木老人をおいかけます。君は私についてきますか、ついてくるのがいやなら、私ひとりでいきます」
「僕は、マリ子の方をさがしたいのです」
「そうですか。よくわかりました。では、正太君には、私の助手の大辻をつけてあげましょう。大辻はなかなか力があるから、きっと君の役に立つでしょう」
 そういって帆村は、大辻を正太の方につけ、そそくさと出かけてしまった。探偵は、なにか心の中に、はっきり考えていることがあるらしかった。
「さあ、坊っちゃん。先生のいいつけで、わしは坊っちゃんのお伴をすることになりましたが、これから何をしますかね」
 大辻は、仁王さまのように大きな男、太い腕を胸にくんで、正太を見おろす。
「じゃあ大辻さん。僕が探偵長になるから、大辻さんは僕の助手というようにしてこれから妹と怪少年のあとをおいかけようや」
「なに、わしは助手か。ああなさけない。わしはいつまでたっても万年助手《まんねんじょしゅ》だ」
「じゃあ、いやだというの」
「いやじゃない。いやだなどといったら、あとで先生から、叱《しか》られるよ」
「ついてくるのなら、それでもいいが、大辻さんは、あまり役に立たない探偵なんだろう」
「じょ、じょうだんいっちゃこまるよ。先生もさっきいったじゃないか。力にかけては、双葉山でも大辻にはかなわないとね」
「あんなことをいってらあ。やっぱり双葉山の方がつよいにきまっているよ」
「子供のくせに、なまいきなことをいうな。出かけるものなら、さっさと出かけようぜ」
 正太は、探偵長になったつもりで、さっそく河原警部にはなしをし、
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