ょっと読みましたが、たいへんな事件ですね。しかし、妹のマリ子が、あのようなおそろしい事件にかかわりあっているとは、僕にはおもわれないのですが――」
「もちろん、マリ子さんにはなんの罪もないのでしょう。マリ子さんと一しょにとびまわっている少年、つまり正太君のにせ者が、いつも先にたってわるいことをしているのにちがいありません。その少年をひっとらえて、あなたと一しょに並べると、これはまたおもしろいだろうとおもいます。じつは、そのことについては、私にもいささか心あたりがあるのです」
「心あたりというと、どんなことでしょう」
「それがねえ――」と帆村探偵は、ちょっと言葉をとめて「いって、いいかわるいか、わからないが、どうもちかごろ怪しい外国人が入ってきて、すきがあれば日本の工場をぶっつぶしたり、軍隊の行動を邪魔したりしようと思っている。ゆだんはならないのです。ことに……」
 といっているとき、扉があいて、帆村の助手の大辻がつかつかとはいってきた。
「先生、いまラジオが臨時ニュースを放送しています。横須賀《よこすか》のちかくにある火薬庫が大爆発したそうです」


   爆発現場《ばくはつげんじょう》


 火薬庫が大爆発をしたというしらせだ。帆村探偵は、椅子からたちあがった。
「正太君。いまおききになったように、火薬庫が爆発したそうですが、私はすこし心あたりがあるから、これからすぐそっちへいってみます。君も一しょについてきませんか」
 帆村探偵にいわれ、正太ももちろん尻ごみをするような弱虫ではなかった。
「ええ、僕はどこへでもついてゆきますよ。ですけれどねえ、探偵さん、マリ子を何時とりかえしてくれますか」
「さあ、それはまだはっきりうけあいかねるが、私の考えでは、この火薬庫の爆発事件も、なにか君の妹さんと関係があるような気がしますよ。とにかく爆発現場へいってみれば、わかることです」
「じゃあ、これからすぐいきましょう」
「よろしい。おい大辻、三人ですぐでかけるが、用意はいいか」
「はい、用意はできています。そんなことだろうと思って、私は車を玄関につけておくように命じておきました」
 帆村と正太と大辻の三人は、玄関に出た。自動車はちゃんとそこに待っていた。大辻が運転をした。三人はとぶように京浜国道をとばして現場へ急行した。一時間も走ったころ、山かげを廻った。すると運転台の大辻が、
「ああ先生、あそこですよ。たいへんな煙がでています」
 と、前をゆびさした。なるほど、まっ黒な煙が、もうもうとふきだしている。
「そうだ。あそこにちがいない。おい大辻、全速力ですっとばせ!」
 帆村探偵の命令で、なお全速力で、現場に近づくにしたがって、爆発のため破壊された家や塀《へい》の惨状《さんじょう》が、三人の目をおどろかせた。現場ちかくで頤紐《あごひも》かけた警官隊に停車を命ぜられた。
「おいおい、ここから中へはいってはいけない」
 三人は車をおりた。帆村が口をきくと、非常線を通してくれた。三人は、地上に大蛇《だいじゃ》のようにはっている水道のホースのうえをとびこえながら、なおも奥の方へすすんだ。
「おい、そっちいっちゃ、あぶない。そっちには、まだ爆発していない火薬庫があるんだ」
 そういって一人の警部が、帆村たちにこえをかけたが、急に気がついたという風に、
「おう、帆村君か。君もやってきたのか」
 と、帆村に話しかけた。帆村がその方を見ると、それは彼と親しい警部だった。
「やあ、河原警部さんじゃありませんか。どうもご苦労さまです。一体どうして爆発がおこったんですか」
「そのことだよ」と河原警部は首をかしげて「どうも原因がわからなくて困っているのだ。君もなにか気がついたら、参考にきかせてくれたまえ」
 帆村探偵はたのもしげにうなずくと、すぐさま一つたずねた。
「爆発の前に、少年と少女が現場附近をうろついていたというようなしらせはありませんか」
「少年と少女とがうろついていなかったかというのかね。はてな、そういえば誰かがそんなことをいっていたよ。その少年と少女とが、どうかしたのかね」
「その少年が、どうも怪しいんですよ。あれはただの人間じゃありませんよ」
「えっ、人間じゃない」河原警部はふしぎそうな顔をして、
「人間じゃなければ、何だというのかね。まさか化物《ばけもの》だというのではないだろうね」
 帆村探偵は、なんとこたえたろうか。


   人造人間《じんぞうにんげん》か、人間か


「警部さん、あの怪少年は、一種の化物ですよ」
 帆村探偵は、大まじめでいった。
「化物の一種だとすると、狸かね狐かね。はははは、そんなばかばかしいことが……」
「警部さん。その怪少年というのは、ここにいる私の連《つ》れの正太君そっくりの身体、そしてそっくりの顔をしているのです
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