う。自分が無電機をこわしておきながら、まだ無電をうたないのかなどとたずねるとは)と、あきれたり、おどろいたり。
「船長さんたちは、海の勇士ではありませんか。しっかりしてください」
正太は、一生けんめいに船長と一等運転士をはげました。
それをきいていた一等運転士は、こころのなかにむっとして、ポケットからピストルをぬきだすと、正太をめがけて、今にも銃口《じゅうこう》をむけそうな気配を示した。そのとき、電話のベルが、けたたましく鳴った。それは正太のために、一命をすくったようなものであった。
「船艙《せんそう》から電話がかかってきたのだろう。おい、なんだ」と、船長が電話にかかった。
「なに、船艙の火事が消えた。それはいいあんばいだ。……ええっ、電気仕掛の口火がみつかったって。それをつかって、荷物とみせかけてあったダイナマイトを爆発させたことがわかったのだって? そいつはおどろいたね。……その電気仕掛の口火を誰がつけたのかわからないって。ふんふん、それはわからんことはないよ」
と船長は、じろりと正太の方に眼をうごかしたが、すぐ眼を元にもどして、
「とにかく、火事の方がかたづいたら、こんどは怪潜水艦と取組む番だ。いつこっちへ、魚雷《ぎょらい》がとんでくるかもしれないから、お前たちはすぐ昇降階段の下へ集っていろ。そしていつでも甲板へとびだせるように用意をしておくんだ。命令をするまでは、甲板へ出てはならない。こっちがうろたえているところを潜水艦にみつかると、都合がわるいからね」
急潜航《きゅうせんこう》
「ねえ船長さん。まだ僕は、なんだかうたがわれているようで、気もちがわるいですね」
と、正太がいった。
船長は受話器をかけながら、ふふんと鼻のさきで笑った。
「この前も信号の煙のでるボールを海になげこんだようにうたがわれ、それを大木さんが口をだしてくれて、うたがいが晴れたはずですが、まだ船長さんたちは僕をうたがっているようです。一体どこがそんなにうたがわしいのですか」
「なにを。君はなんという図々しい少年だ」一等運転士が前へのりだす。
「まあ待て一等運転士。そのことよりも、今はあそこに見える潜水艦から魚雷のとんでくることをしんぱいせねばならないのだ」
「船長。それはわかっていますが、でもこの子供のいうことをきいていると、むかむかしてきてたまりません」
正太は、もっといいたかったが、船長がいったとおり、今はウラル丸を狙っている怪潜水艦の方が大事であることに気がつき、それ以上、自分のことでいうのをひかえた。
「ねえ船長さん。僕にできることなら、なんでもしますよ。ボートを漕《こ》ぐことなんか、僕にだってできますよ」
「ふん。君はだまっていたまえ」
船長は、じっと海面をながめている。一等運転士はまた潜水艦と正太とを、半分半分にながめていたが、そのうちおどろきのこえをあげ、
「おや、船長。潜水艦が潜水にうつったようではないですか」
一等運転士のいうとおりだった。ウラル丸をとりまいていた四|隻《せき》の怪潜水艦が、にわかにぶくぶくと水中にもぐりはじめたのだ。
「そうだ、いやにあわてているようだね。どうしたんだろう」といっているところへ、ぶーんと飛行機の音が耳にはいってきた。しかもかなりたくさんの飛行機らしい音だ。
「あっ、飛行機だ。どこの飛行機だろう」
そういっているうちに、南の空から翼《よく》をつらねて堂々たる姿をあらわしたのは、九機からなるまぎれもない、わが海軍機の編隊であった。
「あっ、日本の飛行機だ。海軍機だ」
「ああ、はじめにうったSOSの無電が通じて、わがウラル丸をたすけにきてくれたのだ。だから怪潜水艦は逃げだしたのだ。うわーっ、ば、ばんざーい」
海面には、いつしか怪潜水艦の姿は消えさっていた。海軍機は、ウラル丸のうえをとおりすぎ、堂々たる編隊のまま、なおも北の方へとんでいく。
ゆるせない砲撃
怪潜水艦のあとをおいかけていた海軍機の大編隊が、とつぜん三つの編隊にわかれた。
「おや、どうしたのだろう」
これを船橋のうえでながめていた正太少年はふしぎにおもった。
すると、どどーんという大きな音がして、ぱっぱっぱっと高角砲のたまが空中で破裂した。そこはちょうど、編隊のまん中であった。飛行機の方でぐずぐずしていれば今の砲撃で、機体はばらばらになるところだった。たちまちそれと察して、編隊をといた海軍機もえらかった。そうおもっていると、つづいて二回目の砲撃だ。どどーん、ぱっぱっぱっと、ものすごい音をたて、目のくらむようなはげしい光をたてる。船長も船員も、正太もマリ子も、みんなびっくりしてこの砲撃を見守っている。一体、どこからこの高角砲弾《こうかくほうだん》はとんできたのであろうか。
「やあ、飛行機が急降
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