におえない奴だということさ」
そういっている間にも、正太は山道のうえをしきりにきょろきょろ見まわしていたが、このとき大きなこえで叫んだ。
「うむ、マリ子もやっぱり人造人間エフ氏につれられていったのだ。そして二人はこっちの方向へ逃げていった」
「えっ、正太君。どうしてそんなことがわかる」
「だって、ここをごらんよ。マリ子の足あとと、人造人間の足あとがついているじゃないか」
と、地面を指した。なるほど、二つの足あとがある。マリ子の足あとは、まるで宙をとんでいるように乱れていた。それにくらべて、エフ氏の足あとは地面にしっかりあとをつけていた。
「ほほう、お前さんはなかなか名探偵だわい」
大辻は目をまるくして、正太の顔を見なおした。だが、正太はしずんでいた。
「マリ子は、エフ氏のためずいぶんむりむたいに引張られているらしい。このままではマリ子は病気になって死んでしまうにちがいない。今のうちにマリ子をたすけないと、手おくれになるかもしれない」
正太は、誰にいうともなく、しずんだこえでそういった。そうだ、正太のいうとおりである。人間ではない機械に、ぐんぐん引張られてゆくかよわいマリ子は、たしかに病気になって死ぬよりほかに道がなかろう。帆村探偵も、それを知らぬではあるまいのに、マリ子の方を追いかけないで、大木老人の方を追っていくとはなんという見当ちがいなことであろう。正太の胸の中には、しばらくわすれていた心配がまたどっと泉のようにわいてきた。
「大辻さん。ぐずぐずしていると、間にあわないかもしれない。さあ、すぐ行こうぜ」
「行こうって、どこへ」
「わかっているじゃないか、人造人間エフ氏の手からマリ子を奪いかえすんだよ。今日中にそれをやらないと、かわいそうにマリ子は死んじまうんだ」
「ええっ、今から人造人間のあとを追うのかね。やがて山の中で日が暮れてしまうがなあ」
「ずいぶん弱虫だなあ、大辻さんは。僕の何倍も大きなからだをしているくせに、そんな弱音《よわね》をはいて、それでよくも、はずかしくないねえ」
「じょ、冗談いっちゃいけない。わしは山の中でやがて日が暮れるだろうと、あたり前のことをいったまでなんだ。からだが大きければ力も強い。人造人間をおそれたりするような弱虫とは、だいたいからだの出来具合からしてちがうんだ」
大辻は、へんなことをいって、しきりに強がってみせた。
「
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