人造人間エフ氏
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)人造人間《ロボット》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)日本人|剛情《ごうじょう》でしゅ、

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
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   人造人間《ロボット》の家


 このものがたりは、ソ連の有名な港町ウラジオ市にはじまる。そのウラジオの街を、山の方にのぼってゆくと、誰でもすぐ目につくだろうが、白い大きな壁と、そのうえに青くさびた丸い屋根をいただき、尖《とが》った塔が灰色の空をつきさすように聳《そび》えているりっぱな建物がある。
「ああ、じつにりっぱなお寺だなあ」
 知らない人は、きっとそういうであろう。ところが、この建物は、昔はお寺であったにちがいないが、今はそうではない。では、あれは一体どういう家なのであろうか? ほかでもない。あれこそイワノフ博士《はくし》の『人造人間《ロボット》の家』なのである。
 人造人間《ロボット》の家――というと、なんのことか分らないかもしれないが、もっとくわしくいうとこうである。イワノフ博士は、たいへんえらい科学者である。もうすっかり頭の禿げあがった老人であるが、若い学者にもまけない研究心をもっていて、ずいぶん古くから人造人間の研究にふけっている。あの寺院のあとへ引越してきたのが、今から十年前だったが、そのときは、タンクをつぎあわせたようなたいへんな恰好の機械人形の手をひいて、あの坂道をのぼっていったので、往来の人々はみな足をとどめてびっくりしたものである。その機械人形は、歩くたびにギリギリギリと歯車の音をたて、そしてときどき石油缶のような首をふり、ポストの入口のような唇のあいだから、
「うーう、みなさん。僕はロボットです。この町へ引越してきました。どうぞよろしく」
 と、ラジオのようなとほうもない大きな声で喋《しゃべ》ったものであった。そして道々いくどもおなじことを喋りちらしながら、坂道をのぼりきって、あのお寺の跡へ姿を消した。そのとき傍についていたイワノフ博士の得意そうな顔ったらなかったそうである。それからこっちへ十年の歳月がながれた。
 イワノフ博士の研究はいよいよすすみ、今では
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