間《ロボット》の研究はとてもおもしろいんだもの。マリちゃん、お前、一足さきへかえってくれない。兄さんは、もっと実験をみてから、帰るから」
「いけないわ、いけないわ」
マリ子は、それを聞くと、正太の胸にすがりついて、放そうとはしなかった。
「だって面白いんだがなあ。ねえ、マリちゃん。イワノフ博士って、すてきにえらい方だよ。人造人間をたくさんこしらえて、世界中をもっと幸福にもっと便利にしようといわれるのだよ。僕、人造人間のこしらえ方まで習ってゆきたいと思っているのだがなあ」
「いけないわ、お父さまが心配していらっしゃるわ。すぐ一しょに帰りましょうよね」
すると、そのときまで黙って二人の話をきいていたイワノフ博士が、声をかけた。
「では正太しゃん。今日はどうぞ、おかえりください。マリ子しゃん、心配しています」
「だって博士。ここを見せてくださるのは、今日かぎりなんでしょう。明日は、もう駄目で見せてくださらないのでしょう」と正太がいえば、
「では、明日一日だけ、もう一度あなたに見せます。あなたひとりで来るよろしいです」
イワノフ博士は、にこにこ顔で、それをいった。
正太《しょうた》の早寝
『人造人間《じんぞうにんげん》の家』を出てのかえり道、マリ子はたいへん機嫌がわるかった。
「兄ちゃん。もう二度と、イワノフ博士のところへいっちゃ駄目よ。博士はきっと恐ろしい人だとおもうわ。兄ちゃんは、あの部屋で、博士となにをしていらしたの」
「人造人間《ロボット》エフ氏という骨組だけしかできていない人造人間があるんだよ。そのエフ氏に日本語を教えてやっているんだよ」
正太は、一向平気でもって、そういった。
「まあ、人造人間が日本語を覚えるなんて、ずいぶん変なことね」
「なかなかよく覚えるんだよ。僕が“ずいぶん寒いですね”というと、エフ氏もまたすぐ後から“ずいぶん寒いですね”と、おなじことをいうんだよ。そして僕の声をまねして、おなじような声で喋《しゃべ》るんだ。あまりおかしくて、僕吹きだしちゃった」
「まあ――」
「するとエフ氏もまたそのあとで、僕がやったと同じように、ぷーっとふきだしたので、大笑いだったよ。あははは」
「まあ、変ね」
マリ子にとっては、それはおかしいというよりも、むしろ気味《きみ》のわるいことであった。このときマリ子が、気味わるく感じたことはまちがいで
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