いと奇妙な物音がしつづけであった。マリ子は、不安のため目の前がくらくなった。
「兄さん、兄さん。マリ子よ、マリ子が待っているのよ。兄さん、居たら返事をしてください」
そういってマリ子は、扉《ドア》をやけに、とんとんとはげしくたたいた。手がいたくなって扉が叩けなくなったとき、マリ子は身体をどしんどしんと扉にぶっつけて、
「兄さん。どうしたの。マリ子よ。早くここへ出てきてくださらない」
と、半分泣きながら叫んだのであった。
そのとき、扉《ドア》のむこうで、がちゃりと鍵をまわす音がした。そして間もなく、扉がすーっと内にひらいた。その扉のかげから現れた一つの顔※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
日本語の先生
「兄さん!」
マリ子は、扉《ドア》のかげから現れいでた顔にむかって、こうよびかけた。
しかしそれは大まちがいであった。正太の顔ではなく、この『人造人間《じんぞうにんげん》の家』の主人イワノフ博士のあから顔であった。
「あっ――」
マリ子は、びっくりして、二三歩うしろへとびのいた。
「ああ博士。兄はどこにいるのでしょうか。早くここへよんでくださいませんか」
マリ子は、博士を拝《おが》むようにして、兄にあわせてくれるようにたのんだ。
「マリ子しゃん。そんなにさわぐ、よくありましぇん」
「だって博士、兄があたくしをおいてけぼりにして、どこかへいってしまったんですもの」
「正太しゃんのことですか。正太しゃんならこの室にいますから、心配いりましぇん」
それを聞いて、マリ子は俄《にわか》に元気づいた。
「えっ、兄はこの室にいるのですか。まあ――」と目をみはり、
「では、あたし、入れていただくわ」
「おっと、お待ちなさい」イワノフ博士は、太い腕をだしてマリ子をひきとめた。
「なかへ入るとあぶないです。ちょっとお待ちなさい。正太しゃん、よんであげます」
博士は室内へひきかえした。
マリ子は、こわごわ室内をのぞいた。中はたいへんうすぐらい。紫色の電灯がかすかな光をだしているだけで、どこかでしきりにじいじいじいと変な音がしていた。
「ああ、マリちゃん。待ちくたびれたのかね」
兄の声がした。どんなにか待っていたその兄の声だった。
「まあ、兄ちゃん。ずいぶん待たせるのね」
マリ子は、兄が奥から姿をあらわしたのをみると、その前にとびついた。
「だって、人造人
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