あ入りましょう」
 そういって博士は、正太を室内にひっぱりこんだ。扉《ドア》はぱたんとしまった。


   怪しい扉《ドア》の中


 こっちは、廊下に待っているマリ子だった。すぐかえってくるという約束の正太が、十分たっても二十分たってもかえってこない。正太はどうしたろう。マリ子は、急に心細くなって、胸が早鐘のように鳴りだした。
(兄さんは、どうしたのでしょう。すぐ出てくるといったのに、まだ出てきてくださらないわ。見物人もみなかえってしまって、こうして待っているのは、あたしひとりなんですもの。ああ、なんだか心細くなって、気が変になりそうだわ)
 マリ子は、廊下をみまわした。夕闇が、廊下の隅に、暗いかげをおとしていた。奇妙な塔が窓からじっとマリ子をのぞきこんでいるようであった。
(マリ子さん、兄さんはもうどこかに行ってしまって、のこっているのは、あなたひとりだけですよ)
 奇妙な塔は、なんだかそんな風にマリ子に話しかけているような気がした。
「ああ、もういやだ。あたし、これから地下室へいってみるわ」
 マリ子は、ひとりごとをいって、廊下を走りだした。
 地下室へくだる階段は、もうすっかり闇の中に沈んでいたが、マリ子は兄にあいたい一心で、とんとんとんとかけくだった。階段をおりると、そこにはまた広い廊下があった。そして大きな扉《ドア》をもった室がいくつもあった。
 一番ちかい部屋の扉の前に立って、マリ子はこわごわ室内の様子をうかがった。扉のむこうは、しずかであった。人のいるようなけはいはしなかった。
(この部屋ではないらしいわ)
 マリ子は、おびえたように、扉を見なおすと、“倉庫”という文字が、マリ子にもよめた。
「あら、ここは倉庫なんだわ」
 マリ子は、足早《あしばや》に、廊下を歩いて、次の部屋の前に立った。すると、部屋の中から、じいじいじい、じいじいじいというかなり高い物音がひびいてきた。
 そこには“人造人間《じんぞうにんげん》エフ氏の室”と書いてあった。
(まあ、人造人間エフ氏の室、兄さんはここにいるのじゃないかしら)
 マリ子は、おもいきって、扉《ドア》をとんとんと叩いた。
「兄さん、正太兄さん。マリ子ですわ」
 マリ子は、そういって、しばらく返事をまった。
 しかしどうしたものか、マリ子のまっていた返事はきかれなかった。ただ扉の向うでは、あいかわらずじいじいじ
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