うとして、くるしんでいる夢をみていた。
そのとき、私は、誰かに呼ばれているような気がした。
「千吉、千吉!」
ほう、私の名を呼んでいる。
(誰? お母アさん!)
「千吉、千吉!」
私は、はっと正気《しょうき》に戻った。
「千吉、千吉!」
私は、その場に、とび起きようとした。
「し、静かにして……」
その声が、私の耳もとに、ささやいた。そして、私の両肩は、下におしつけられたのであった。
電灯が、点《つ》いている。そして私は、ふんわりした藁《わら》のうえに寝ている。
「おや。君は、ニーナじゃないか」
私は、目をみはった。私の傍《そば》についていたのは、ニーナといって、私たちの住んでいたアパートの娘だった。彼女は、小学校の六年生だった。私は、ふしぎな気持になった。私は、ドイツ軍の侵入の夢をみながら、アバートで睡《ねむ》っていたのではなかろうか。
いや、違う。アパートには、こんな妙な室はなかった。ここの部屋ときたら、まるで工場の物置みたいである。
「あたし、ニーナよ。でも、千吉、うまく気がついてくれて、よかったわね。あたし、千吉はもう、死んでしまうのかと思ったのよ。だって、あた
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