ていたことは、全くふしぎなことでもあった。だが、そのとき私は、こう思った。
「ふん、ドイツ軍のスパイがやった仕事だな。それにちがいない」
 私は、それ以上、うたがいもせずに、どんどんと、灯台の灯を目がけて、前進した。足をとられてごろんごろんと転《ころ》がること数十回、数百回。これでも[#「これでも」はママ]私は、すぐ跳《は》ねおきて、イルシ航空灯台の灯を目あてに、次の前進をつづけるのだった。
 こうして、くるしい前進をつづけ、時間は、はっきり分らないが、約一時間以上かかって、私はようやく、上り坂になった段丘にたどりついたのであった。
 砲声や銃声は、ひっきりなしに、鼓膜《こまく》をうち、脚にひびいてくるが、幸いにも、この段丘附近は、しずまりかえっていた。私は、ほっと、息をついた。ここまで来て、どうやら、戦闘の渦の中から、うまく外《はず》れることができたように感じたからである。私は、にわかに、たえ切れないほどの疲労をおぼえて、そのまま段丘の斜面《しゃめん》に、うつ伏《ぶ》してしまった。
 それから、どれほどの時間が流れたのか、私は、全くおぼえていない。
 私は、しきりに、算術の問題をとこ
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