わーン。がらがらがらがら。
家が、大地震のように鳴動《めいどう》した。迫撃砲弾《はくげきほうだん》が、この建物に命中したらしい。もう猶予《ゆうよ》はならない。
「おい、ハンス。もう駄目だ。逃げよう」
と、私は友を呼んだが、そのときハンスは、黒い筒の一本を抱えたまま、ものもいわず、二階の窓から外へとびおりた。
ニーナのこえ
それ以来、私はハンスと、別れ別れになってしまった。
私も、自分に預けられた一本の黒い筒を小わきにかかえて、階段を下り、裏口から戸外にとびだした。そのときは、空はまっくらであったが、銃声と反対の方へ逃げだして、五分ぐらいたって、後をふりかえると、私たちのすんでいた町は、三ヶ所からはげしい火の手が起っていた。
砲声は、しきりに、夜の天地をふるわせている。気がつくと、頭上を、曳光弾《えいこうだん》が、ひゅーンと、気味のわるい音をたてながら、通り越して行く。しかもこれから私が逃げようという方角へ、その曳光弾《えいこうだん》はとんでいきつつあることを知ると、さすがの私も、足がすくんでしまうように感じた。
「これは、いけない。ぐずぐずしていると、ドイツ兵にみつ
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