かがった。だが私は、そしらぬ顔をして、立っていた。大尉の調練《ちょうれん》は、三十分で終った。
「もういいだろう。モール博士の作った人造人間は、思いの外《ほか》、すぐれた働きをするものだわい」
大尉は、技師たちに、休めを号令した。そして汗をふいた。私も汗をふいた。全《まった》く、博士の研究の偉大なのにはおどろくほかはない。こういう立派な機械の設計図を、まんまとフリッツ大尉の手に渡してしまったことが、たいへん残念であった。私は、深い後悔《こうかい》におちた。
廻《まわ》らぬ歯車《はぐるま》
大尉が、汗をぬぐい終らぬうちに、指揮塔の向こうに見えている箱の横に、ぽっかりと扉が開いて、中から一人の技師が、とびだしてきた。
「フリッツ大尉。これは、どうもへんですぞ」
と、彼は、大きなこえで、どなった。
大尉は、びっくりしたような顔になって、箱の中にひそんでいた技師を、そばによびよせ、
「なにが、へんだ」
と、きいた。
「なにがって、エッキス光線で、今の人造人間の腹の中をみていたのですが、腹の中にあるたくさんの歯車のうちで、ついに一度もまわらなかった歯車が二個ありました。へんじ
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