ゃありませんか」
 技師は、熱心を面《おもて》にあらわしていった。
「まわらない歯車が二個もあったか。どうしたわけだろう」
 と、大尉は私の顔を、じろりと睨《にら》んだ。
 だが、何を、私が知っているものか。
「あらゆる号令は、かけてみたつもりだが、はて、へんだな」
 と、大尉は、なおも解《げ》せぬ面持《おももち》で、広い額を、とんとんと拳《こぶし》で叩いた。
「なぜだろうな、セン。説明したまえ」
「私が、なにを知っているものですか。あの筒の中に、こんなすばらしい設計図が入っていると知ったら、私は、あんなところにぐずぐずしていませんよ」
「ふしぎだ。が、まあ今日のところは、これでいいだろう」
 と、フリッツ大尉は、試験の終了《しゅうりょう》を宣《せん》したのであった。
 私たちは、檻を開いて、外に出たが、そのとき大尉は、私に向い、
「どうだね、セン。君は、捕虜《ほりょ》として土木工事場《どぼくこうじば》で、まっ黒になって働きたいか、それとも、この工場で、見習技師《みならいぎし》として、楽に暮したいか」
 と、たずねた。
「もちろん、楽な方がいいですなあ」
 と、私は即座《そくざ》に答え
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