く分らないらしい」
「中、中国人です。センという姓です」
 私は、うそをいった。
「なんだ、中国人か。ふふん、やっぱり中国人だったか」
 と、フリッツ大尉は、失望したような口ぶりだった。
「おい、セン。お前は、モール博士と知り合いなのか」
「いいえ、知りませんなあ、モール博士などという人は」
 私は、つづいて、うそをいった。身の安全のためには、博士との関係をいわない方がいいと思ったからだ。なぜといって、博士は、あれほどドイツおよびドイツ軍をきらっていたから。
「じゃ聞くが、あの黒い筒は、どうしたのか。お前の持っていた筒のことだよ」
 フリッツ大尉は、私を睨《にら》みすえるように、いった。
(ははあ、大尉が、筒をあけて、あの中身を、写真にとってしまったんだな)
 と、私は、はじめて知った。
「あの筒は、拾ったものです。なんだか、いいものが入っているように思ったので、持っていたのです」
 私は、またもや、うそをいった。そういうより、仕方がないではないか。
「ふふん。まあ、そうしておいてもいいと……」
 が、フリッツ大尉は、拳《こぶし》で、自分の背中をとんとんと叩《たた》きながら、
「とにか
前へ 次へ
全42ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング