に、灯が点く設備があるなどということを、きいたことがない」
「わかっているじゃありませんか。このベン隧道の下には、どこに国の人々が働いているかを考えれば……」
 ニーナは、なまいきな口をきく。やっぱり、ドイツ軍に属する第五列のスパイの手によって、昨夜、ベン隧道のうえに、あのまぎらわしい灯火《とうか》が点けられ、そして私は、まんまとそれにあざむかれて、こっちへまよいこんだのであろう。
「で、私は、だれに、助けられたのかね。君かね、ニーナ」
「あたしじゃないわ」
「じゃあ、誰?」
「フリッツ大尉《たいい》よ」
「フリッツ大尉って、誰だい」
 そういっているところへ、うしろの扉が、ぎいーッと開いた。
「あ、フリッツ大尉よ」
 ニーナが、私の横腹《よこばら》をついた。私は、フリッツ大尉の、いかめしい軍服姿に、すっかり気をうばわれてしまった。
「おう、どうだ、君の傷のいたみは?」
「ええ、大して痛みません」
「そうか、痛みだしたら、またいいたまえ。注射をうってあげよう」
 フリッツ大尉が、傷の手あてのことまで、やってくれたものらしい。
「ところで、君は、何国人《なにこくじん》かね。ニーナには、よ
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