親 とんだことを仰言《おっしゃ》います。
父親 なあに、本当のことをいっているんだ。無茶苦茶に暗記をしたり、それから、また無茶苦茶に受験書を買いあつめたりするのは愚《ぐ》の骨頂《こっちょう》だよ。そんな詰めこみ主義は役にたたんばかりか、むしろ反対に害がある。常識上重要な原理さえしっかり覚えていれば、いいんだよ。受験書なんか、一冊で沢山だ。この間も勘定したら、お前は漢文《かんぶん》の受験参考書だけでも二十七冊も集めていやがった。まるで蒐集《しゅうしゅう》マニアだ。
母親 蒐集マニアだなんて、まあひどい。あなたの原理主義なんかに従っていると、高等学校のあのむずかしい問題なんか、一題だって出来やしませんわ。
父親 お前がそんなに勉強しているのならちょっと尋《たず》ねるが、颱風が近づいてね、いいかい、真東から風が吹いているんだ。しからば颱風の中心はどの方角にあるか。
母親 颱風の中心ですって、そんなこと試験問題集に出ていませんわ。
父親 それ見ろ、知らないじゃないか。これからの試験にこういう常識上知っておかなければならぬ問題が出るんだぞ。参考のため教えてやろう。いいかね、真東から風が吹いていれ
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