などを暗記しておりますのも、道夫以上に母親が知っていれば、道夫が発奮《はっぷん》すると思うからでございますよ。それから、あたくしは、新聞の広告面を毎日隅から隅まで目をとおしまして、なにか新刊で優秀な受験準備書がありますと、すぐ本屋へとんで行って買ってまいります。そしてまずあたくしが読んでみまして、他の受験書に出ていない問題を選《よ》りわけまして、道夫に毎日毎日やらせているのでございますよ。あたくしは、いやしくもわが国において印刷になった練習問題なら、一度は必ず道夫にやらせておかなければ、枕を高くして寝られないのでございます。そのお陰で道夫は入学試験のとき、どんなに楽だか知れません。それほどあたくしが……。
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それなのに――。
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父親 おい御飯だ、お代りだ。
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茶碗と飯櫃《おひつ》の音。
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母親 あなたはあまりに冷淡《れいたん》です。
父親 ばかをいうな、お前が熱心であることは認めるが、そんなやり方は感心できない。
母
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